追加調査を行う(後編)
さて、前回は自分のテーマに近いことをだれがやっているか、学会発表の内容を表にまとめました。今回はその情報をもとに追加の調査を行います。
研究職への就職大作戦はこちらも参考にしてください。
文献について確認する
もし大学の図書館の検索システムがあれば、蔵書と入手可能な文献の範囲を確認しておきましょう。蔵書がなくても大学が契約しているジャーナルであれば無償ダウンロードができる場合もあります。調査の手間とお金はかからないに越したことはありません。
論文サーチエンジンはたくさんありますが、日本語で調査する前提であればまずこの二つを押さえておきましょう。もちろん大学で契約している有料のサーチエンジンがあれば是非それを活用してください。
・国内の文献のデータベース:CiNii
CiNii Articles - 日本の論文をさがす - 国立情報学研究所
・世界の文献のデータベース:Google Scholar(日本語でも英語でも検索可)
PCとプリンタがあれば確実ですが、タブレットでも何とかなるでしょう。これで文献調査の準備は出来ました。
関連文献の記載がある場合
学会の予稿集に発表者または連名者の関連文献で最近のものがあれば、類似の内容が報告されている可能性が高いので検索して内容を確認しましょう。全文確認するのが理想ですが、本文が確認できなくてもアブストラクトはたいてい読めるようになっています。チェックポイントは下記の4点です。本文が無償で入手できる場合には、詳細は読まなくても入手しましょう。後から必要になる場合があります。
①第一著者及びキーパーソン(テーマのリーダー学の教授など)の名前
※他の法人の連名者(共同研究先)も含む
②その研究の特徴を示す専門用語の表記(日本語または英語)
③その研究の成果や強み(著者の言い分)
④関連文献
それぞれについて補足すると
①学会発表では学生の教育として学部生やマスターの学生に発表させることが多いです。実際には彼らを指導している教授や助手、ドクターの学生などがキーパーソンになっている場合がほとんどなので、技術のキーパーソンを押さえておかないと文献や特許の検索漏れにつながります。
②①にも関連しますが、特に新しい技術分野では、「みんなで共通に使っている技術用語」が統一されていない場合があります。それぞれの組織で独自の用語を使っている場合、こちらも検索から漏れる場合があるため、それぞれがどのように自分たちの技術を表現しているかを確認します。実は用語の使い方で業界の派閥が分かる場合もあります。
③これはその技術に対して、どのような課題があって、そこにどうアプローチしているかということを知るために必要です。あくまで著者の言い分なので、そのアプローチが最適とは限りません。後で勢力図を作るときに必要になります。
④孫引きできる関連文献を探します。また、著者がライバルだと思っている組織の文献が引用されている場合もあるので、それぞれの文献がどのような意図で引用されているかを確認します。
これらについては、それぞれの文献に直接書き込むなどして後でわかるようにしておきます。できればフリーフォームでいいので組織ごとに1枚メモシートを作っておくといいでしょう。チェックしながらあなたが感じたことを自由に書いておくと後で役に立ちます。
他の関連文献を探す
もし予稿集に関連文献があった場合には、上記の①と②をキーワードとしてサーチエンジンで検索します。なかった場合には、学会の予稿集からピックアップしたキーワードと発表者の法人名(〇〇大など)で検索してみるといいでしょう。チェックポイントは上と同じ①~④になります。
キーワードが適切であれば、過去3~5年分検索しても、一つの法人について見つかる文献の数は10件以下に収まると思います。もし多すぎる場合にはキーワードを見直してみて、それでも多い場合には文献のリストだけ作っておき、アブストラクトから重要と思われる文献を10件以下で選んで内容をチェックしましょう。
①~③を作成した表に追記します。
特許について確認する
特許について確認することは重要です。特に企業の場合、研究戦略上特許を先に出す必要があるため(例外はありますが基本的に出願前に発表すると特許性がなくなるから)、研究範囲は特許の方がより現実に近いでしょう。
また、特許を確認することで、実際に関わっている人物が分かりますし、そこから研究チームの体制もある程度推測できます。
検索のポイントとしては、文献とほぼ同じです。ただし、特許の文章はとても読みにくいため、基本的には【発明の概要】を読んで、必要に応じて【発明が解決しようとする課題】【課題を解決するための手段】【発明の効果】を確認する程度で構いません。チェックするのは、文献と同様に下記の4点です。
①発明者(テーマリーダーなどチームのキーパーソン)の名前
連名者(共同研究先)の名前
②キーワード
③その特許の強み(著者の言い分)
④関連特許
を軸に考えましょう。他にも分類(Fタームとか)などを活用する方法もありますが、このあたりはいきなり踏み込むと疲れるので別の記事でまとめたいと思います。
引用されている特許がある場合
もし、学会の予稿集に公開または権利化されている特許がある場合はラッキーです。公開されていればシステムで内容を確認することが出来ます。公開されているかどうかは特許の番号で判断することが出来ます。
権利化されている特許:特許第○○○○○号
公開されている特許:特開平○○-○○○○○○
未公開(予稿集提出時点で):特願平○○-○○○○○○
記載されている番号を下記の「特許情報プラットホーム」で検索すると出てきます。
見つかったら上記の①~④をチェックしましょう。
国内で公開されている特許を探す
日本国内の特許であれば、上記の「特許情報プラットホーム」というサイトで検索が可能です。詳しい使い方は特許庁のHPで紹介されているのでこちらを参考にしてください。
外国出願も含めて探す
外国の特許について確認する場合はグーグルの特許検索サービスがとても便利です。英語が苦手という場合には、とりあえず日本語で検索してみましょう。なぜならPCT出願(国際特許出願)と呼ばれる出願を行った場合、外国向けの出願でも日本語での記載があるのです。
外国出願で日本語の特許を検索することは一見意味がなさそうに思われますが、実は重要です。詳細については省きますが、日本の特許は「国内優先権」を主張して関連特許を続けて出すことによって特許の公開を遅らせることが出来ます。公開が遅くなれば、ライバルがその特許の対抗策を講じるまでの時間を稼ぐことができ、技術的優位に立てるのです。それに対して、外国出願した特許は公開を先延ばしにすることが出来ないため、海外の特許の方が先に公開される場合があるのです。
追加情報を表に追記する
まず、追加で調べた文献および特許の情報を前回作成した表4-2に追記していきます。
表5-1 追加情報を入れたリスト(一部抜粋)
さらに、それぞれの行に、関連文献および特許から調べたチェック項目①~④を追記します。
表5-2 チェック項目の追加したフォーム(一部抜粋)
このようなフォームの中身を埋めていけば、あなたのオリジナルのデータベースの完成です。ここまでできれば少なくとも理系(技術職)の就職活動での強い武器になります。これに基づいて「就職したい企業や法人」の選定や作戦を考えていきましょう。
次回は「業界マップを作る」について説明します。